舞鶴公園の藤園をごぞんじですか。藤園のフジはかつて花つきが悪かったのですが、ここ数年でめきめき元気に
なり、
たわわに花を垂らすようになりました。その陰には福岡市緑のまちづくり協会(以下 協会)と
専門家による知恵と経験を結集した管理と治療がありました。
今回の特集は、再生の取り組みやフジを楽しむイベントなどをご紹介します。
藤園のフジは30本あり、そのうち10本は、樹齢100年以上の 老木で、明治9年東公園(博多区東公園)に植えられた フジを昭和54年に移植したものです。
昭和50年代、東公園に県庁建設にあたり、東公園の樹木の一部が県内各地に移植され、フジは舞鶴公園に移植されました。ちなみに東公園にあった公園樹として利用できる樹木は当時建設中だった春日公園(春日市)や名島運動公園(福岡市東区)等に移植されたそうです。
舞鶴公園に移植されたフジは次第に花つきが悪くなっていきました。
協会は、平成23年度から、藤園の再生に積極的に取り組み始めました。そのための診断・治療は福岡県樹木医会に委託しました。
福岡県樹木医会
会員すべて樹木医で
構成され、多岐にわたる知識と技術を活か
して樹木の調査から診断、治療まで行う
専門家集団。
(福岡県樹木医会ホームページはこちら)
調査ではいくつかの課題があったものの、今後の治療によって樹勢が回復するとの診断でした。
課題と対処法は次のようなものでした。
平成23年度冬、再生治療を開始しました。
冬は、藤棚全体に放射状に枝が広がるように、不要な枝の除去、ツルの誘引を行います。
桁上での整枝剪定作業
幹の誘引作業による骨格づくり
春の花後は養分を根や枝葉に集中させるため、花がら摘みを行います。
夏は花芽となる枝に日光を当てるため、重なった枝葉を切除して徒長したツルの剪定を行います。
また、台木から勢いよく伸びたヤマフジのツルは、観賞用のノダフジの生育を妨げるので、ヤマフジを切除します。
(早い時期に咲く白フジは生育範囲を限定し、残しました)
剪定の時期と方法を守らないと狂い咲きや花芽がつく枝が枯れることになり、長くて美しい花房が望めなくなるので、
しっかりとした知識・技術を持った剪定管理が大切です。
剪定前 棚下は暗く、うっそうとしています
剪定後 棚下にも日が射し込みます
藤園は、治療開始当時、土が固く、太い根を張れない状態でした。土を耕し、空気と肥料を含んだ土づくりを行いたいのですが、舞鶴公園は国指定史跡に指定されており、土を深く掘ることを制限されています。
そこで舞鶴公園の藤園で実施可能な対策として、植込みのエリアと園路のエリアをわけて、さらにエアスコップという空気の力で土を掘ることができる特殊な機械で、根を傷めずに固まった土をほぐしました。
エリアを枕木で仕切り、植込みエリアにはリサイクル堆肥、 園路には木チップを敷きつめました
エアスコップを使用して、通気性・透水性を改善させるための 土壌改良剤や肥料を混入しつつ、土をほぐします。
枝を誘引する竹の棚をとりつけました
舞鶴公園の藤棚は公園で一般的に使用されるパーゴラを使っていて、藤棚としては高すぎるつくりです。ノダフジの花房は長いもので1m以上も下がります。しかし舞鶴公園の藤園で梁の上から下がる花房は高さ50センチほどの梁に隠れ、短い花房としか見えません。
平成24年度、桁の下に枝やツルを誘引するための竹を50cm間隔でとりつけました。これによって、棚の下に花のついた枝を誘引できるようになりました。
剪定の際、枝が棚の下に伸びるようにひもで誘引したり、花芽を選ぶ際、お客様に近い下向きの花芽を優先的に残したり、といった魅せるための工夫を、毎年続けています。
一部のこぶ病にかかっているもの、幹が腐っているものについては以下のような治療を行いました。また、せっかくついたつぼみの開花を妨げるフジツボミタマバエの対策には、最近特に力を入れています。
こぶ病にかかった小枝は切除、骨枝、主幹は患部を削り、抗生物質を塗布します。
幹が腐った箇所は切除・清掃を行い、
木質強化剤を浸透させます。
白く丸いつぼみはフジツボミタマバエの
卵を産みつけられたもの。
フジツボミタマバエの卵を産みつけられたつぼみは開花せずに落下し、その幼虫が土中で越冬、春に成虫になり、つぼみに卵を産みつけます。薬剤の散布では全滅できないので、つぼみがつき始めたら注意深く観察し、被害をうけたつぼみをひとつひとつ手で除去していきます。
平成27年は、花が多い分被害も多くなり、除去したつぼみはバケツ約10杯分にもなりました。
フジの再生への取り組みは福岡県樹木医会としては初めての取り組みとなりました。個々の樹木医においては黒木の大藤、中山の大藤(国・県指定天然記念物)などの診断・治療の実績はあったのですが、樹木医会員の経験と知見を結集して取り組みました。足利の大藤の剪定指導もされた正木樹木医(静岡県)をお呼びしての研修や果樹技術(ブドウ栽培)の活用など多くの樹木医の能力が発揮され、当初の目標は達成できました。祭りが始まるまでになったことは喜ばしい限りです。
フジは人とのつながりの深い花です。人々が常に係わり、維持管理を行い、見守っていかなければ良くなることはありません。これからも長くて美しいフジの花房が多くの市民を楽しませてくれること、福岡県内でも稀有な棚面積を誇る藤園が有名な観光名所となれることを願っています。
(福岡県樹木医会代表理事 森 陽一)
藤園のフジは徐々に花の数が増えてきました。まだ藤園全体とまではいきませんが、少しずつ回復に向かっています。
木漏れ日のさす藤棚の下には、多くのお客様が花を楽しみにいらっしゃるようになりました。
花房の長さは1.4mもありました。(平成27年計測) 平成27年度の計測では4000の花房が確認でき、花数としては十分な数だったので、今後は花房の長さを出すために花芽の選別を行なっていく予定です。
平成25年からフジの花が咲く4月中旬~下旬にイベントを開催しています。藤棚の下で、毛せんを敷いたベンチを設置しゆっくりくつろぐ空間をご用意。「福岡城藤まつり」では植物をつかったワークショップや花苗販売など、毎年様々なブースが出店します。詳細はホームページのイベント情報でご案内します。隣接する牡丹芍薬園では、ちょうどボタンが開花の時期です。フジやボタンを見に是非お越しください。
毛せんを敷いたベンチ
藤園の様子
藤まつりの様子
牡丹芍薬園のボタン
平成23年度からの取組みで、枝の骨格はかなり修復され、年々花つきがよくなっていきました。当協会は今後も福岡県樹木医会の助言を得ながら、美しい藤園を楽しんでいただくため、管理や治療を行っていきます。